悔しみノート
私が好きな本、『悔しみノート』(2020年、祥伝社)は、日本大学芸術学部卒、24歳女性の『梨うまい』さんが、「良い」と思ったエンタメ作品に感じた悔しさを、綴った本です。自身が心身の調子を崩し、自分のやりたい仕事が出来ない自己嫌悪を、TBSラジオ、『ジェーン・スー生活は踊る』に相談し、ジェーン・スーさんに、「悔しみノートの作成を命じる」と、アドバイスされました。1年後、番組に送られてきた悔しみノートが面白すぎて、書籍化されました。ジェーン・スー曰く、「あんた、すごいよ」。
まず、良いエンタメ作品に対する、梨さんの悔しさの熱量。番組に送ってきた悔しみノートは、手書きのルーズリーフです。1部のページが手書きのまま書籍に掲載されていますが、殴り書きで字が汚いんです。罫線も無視しているし。字面からも感じられる、強烈な悔しさ。妬み嫉み僻みだけど、私は、粋に感じました。良い作品の作り手に、良い作品を享受した観客に、賛辞を贈っているように聴こえました。私には、梨さんの叫びが聴こえました。
私も、優れた作品に出会った時、悔しさを感じます。クリエーターを目指した事はありません。作文も感想文も大の苦手で、クリエイティブな才能なんて無いけれど、梨さんと似た感覚があります。作り手に悔しさを感じるのは、間違った見方だと思っていました。無力で無能な自分を呪うし、天才を羨ましいと思います。逆に見れば、羨むのも、妬み嫉みも、悔しさも、相手への称賛なのです。私のそんな見方も、梨さんが肯定してくれました。
私は、梨さんが羨ましいです。面白いですもん。続編が出ていないのか、たまに検索しています。そこらの批評よりずっと、面白いです。梨さんの望んだ形ではないのでしょうけど、クリエイティブすぎます。他に同じような事をしている人、いないですから。
2022年5月2日