悪役のままでいて
2022年10月16日の朝日新聞朝刊のテレビ・ラジオの感想コーナーに、共感する投稿がありました。『鎌倉殿の13人 ウラ話トークSP』についてです。要約すると、「厳しい役柄の出演者たちが、楽しそうに話す姿に違和感を持った」。私も、ジャッキー・チェンの映画で同じような体験をしたことがあります。メイキングや裏話が本編の魅力を高めることはないけれど、映画の世界観を台無しにすることがあります。
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985年、香港)のエンドロールはNG集です、警察官役のジャッキー・チェンと香港マフィア役の俳優が、カンフーのタイミングが合わずにじゃれ合う姿が映ります。ものすごく悪い奴が警察官と仲良くする姿に、脳が混乱しました。今では演技と分かるけど、当時は映画の内容を台無しにされたように感じました。子供の私は、作り話だと思い知らされてショックを受けました。
昔はDVDを買うのに、メイキングの入った“豪華版”を選んでいました。最初は面白かったけど、裏話は本編の魅力を高めないことに気が付きました。「撮影が大変そう」と思うことはあるけれど、苦労話をされると興ざめしてしまいます。特に、ヒーローと悪役の苦労話は知りたくありません。ヒーローは強いものだし、悪役は悪いものです。そのイメージが弱められてしまいます。
『鎌倉殿の13人 ウラ話トークSP』では、粛清された人も笑顔で出演していて、劇中の殺伐とした雰囲気を断ち切りました。ジャッキー・チェンの映画のエンドロールでは、「ものすごく悪い奴」が、実は「俳優」であると知りました。スタントを何回もトライしていたり、テーブルに切れ目が入っているのも知りました。優れた作品ほど、作品の中にいさせてほしいのです。現実に戻さないでほしいのです。
2022年10月25日