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小豆と阿月

 現在放送中の大河ドラマ、『どうする家康』。2023年4月16日放送の第14回は、「金ヶ崎でどうする!」。金ヶ崎の退き口といわれる撤退戦をどう描くのか、楽しみにしていました。しかし、「その後、なんやかんやありましたが、無事、金ヶ崎の戦いを乗り切ったのでありました。」と、翌週のナレーションで片付けられました。フィーチャーされたのは、架空の人物の阿月でした。

 

 お市の方の侍女の阿月は、浅井長政の裏切りを徳川家康に伝えるために小谷城から金ヶ崎まで走ります。「10里(約40km)を超える」距離を走り徳川家康の陣にたどり着いた阿月は、家康に「おひき…候え…。」と伝え、息絶えました。随所に挿入される回想シーンでは、身売りされるなど不幸な生い立ちなのが窺えます。忍者でもない阿月に過酷な任務を与えて殺した作り手に、怒りを感じています。

 

 字幕で「10里=約40km」と出たのには驚きました。40kmを伝令として走るのは、マラソンの起源とされる話と同じだからです。お市が信長に、両端を縛った小豆袋を陣中見舞いに送ったという話があります。両端を縛った袋を見た信長は、挟み撃ちにされるのを悟り撤退を決めます。この話も創作とされますが、私は小豆袋のほうが好きです。伝令が死ぬ話をなぞるよりは、ずっといいと思います。

 

 観たいのは、架空の少女の死ではありません。阿月の不幸は戦国時代が生んだ不幸ではなく、作り手が生んだ不幸です。私は作り物の不幸で感動するほど、お人好しではありません。負け戦を悟る嗅覚​の鋭さ、撤退の判断の早さ、朝倉義景と浅井長政に挟み撃ちにされる危機からどうやって逃げ切ったのか。作り手の考えが見たかった。負け戦こそ、ちゃんと描いて欲しかったです。

2023年5月11日

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